ウィリーおじさんは海と同じアパートに住んでいる。
低所得者のためのアパートが近所にあるこの辺りはとても住みやすい。海が住んでいるアパートも格安だ。
だからなのか?アパートの住人の入れ替えが激しい。
家賃を払えなくなって追い出される人、仕事が見つかって引っ越す人、問題あり住人は知らないうちにいなくなっている。
今の住人さんたちは今までの中で、一番静かで問題もなく落ち着いている。
12世帯あるアパートの4世帯は、海たちが引っ越してくる前から長く住んでいる住人さんたち。
この4世帯の人たちとは助け合いながら、良いご近所付き合いをしている。
ウィリーおじさん夫婦(2階)とウィリーの奥さんのお母さん(1階)もこの4世帯のうちに入っている。
ウィリーは64歳、とても優しい黒人のおじさんだ。
奥さんは病気で家から出られず、ウィリーはフルタイムで仕事をしながら家事もすべてこなしている。
しかも奥さんのお母さんの面倒までみている。
掃除、洗濯、お料理、買い物、すべてウィリーが一人でしている。
引っ越してきて5年間、ウィリーの機嫌が悪かったことは一度もない。
いつも笑顔でおしゃべり好き、捕まると15、20分は覚悟をしなければならない。
でも決して嫌ではない。
ウィリーは絶対に愚痴など言わないからだ。
奥さんの病気のこと、仕事のこと、家事のこと、どんな話題でも一度も愚痴を聞いたことがない。
先日奥さんが救急車で運ばれる騒ぎがあったが、その時も「トイレに行ったら立ち上がれなくなって救急車を呼んだんだ」
普通ならそのあとに愚痴が続きそうな話だが、絶対に愚痴やネガティブな発言はしない。
どんな話でも楽しそうに話す。
料理の話でも、「ブロッコリーは嫌いだったけど体に良いから最近は食べるようになったよ」
「こんな風に料理をしているよ」「こうして食べたらすごく美味しかった」
ウィリーから出てくる言葉は、明るくてとても軽やかだ。
先日も早朝5時、コインランドリーで一緒になった。
「今日の大きな仕事が終わったから、これからゆっくり朝食だ!!」
と笑顔でウィリーはたくさんの洗濯物を済ませていた。