言葉はとてもややこしい。
伝えたいことがそのまま伝わることなどないかもしれない。
同じ言語をつかっている夫・空とも、言葉の取り方の違いでコミュニケーションが難しい時が多々ある。
思考が似たもの同士なら言いたいことが簡単に通じるかもしれないが、考え方や捉え方が違う空との会話では、お互いに言いたいことに説明が必要な時がある。
言語が違うと・・・
海は英語の上達はすでに諦めているので、ほぼ勉強などしていない。
だからいつまで経っても英語が下手くそのままだ。
それでもコミュニケーション能力は高い方なので、あまり不自由を感じないで暮らしている。
言葉で通じない時は、身振り手振りのボディーランゲージで会話を成立させてしまうから。
今までは働いている農場にメキシカンの人たちがいたので、英語半分、スパニッシュ半分で会話をしていた。
今はアメリカ人オーナー家族、同僚のローラ、そしてたまに空が手伝いに来てくれるので、会話はほぼ英語。
夫婦の会話も2人だけの時以外は、英語で話すようにしている。
「おはようレディース!!今日の調子はどう?」
「もちろん絶好調だよ!!」
毎朝マットとの会話はこんな風に始まる。
ある朝、いつもよりパワーアップなマットがハイテンションで職場に来た。
「マット、今日はいつもよりハイテンションで良いね!」
マットとローラは二人で顔を見合わせた。
「ローラもそう思わない?」
海はローラに同意を求めたが、さらに変な顔をした。
「海、どういう意味?」
「えっ?」
「ハイテンションって、あまり良い意味じゃないよ。海が言いたい意味はきっとハイエナジーだよ」
テンションは英語では「緊張」のこと。
ハイテンションは緊張感が強い、あまり良い雰囲気ではない状態のことだ。
「そっか、英語ではそういう意味だよね。でも日本語では違うニュアンスなんだ。ジャパングリッシュだね」
今の日本は横文字で溢れている。
お店の名前やブランド名などほぼアルファベット表記だ。
〇〇商店、喫茶店〇〇などという店名を見ると、逆に新鮮にみえる。
日本語も英語や他の言語が混ざって、知らないうちに意味がごちゃごちゃになっていることもある。
アメリカで暮らすようになってから、きちんとした日本語を知らないと、きちんとした英語を学べないことを感じた。
本当に英語が上手な日本人は、英語を混ぜて会話をしない。
英語が中途半端な人ほど、英単語を混ぜながら話す。
英語がへたくそな海はできるだけ意識して、日本語を話す時は日本語だけを使うようにしている。
先日、ローラとの簡単な会話で通じないことがあった。
前置詞の違いで意味が大きく変わる。
海は前置詞がとても苦手だ。
「海、このケールはグリーンミックスのために使っても良いんでしょう?」
「ローラ、これは全部ケールだよ」
「このケールはグリーンミックスにも使って良いんでしょう?」
「このコンテナの中は全部ケールだよ」
「だから・・・このケールは、半分はケールだけあとはグリーンミックスに入れて良いんでしょう!」
「そうだよ。そう言いたかったんだ」
何度も同じ会話のやりとりをしている二人を心配したマットが言い合いをしているのかと勘違いをしてやってきた。
「大丈夫?何かあった?」
「マット、私の英語問題だよ。英語は難しい!」
海の英語の勉強は日々のこういう小さな会話のやりとりだ。
マットもローラも優しいので、へたくそな海の英語でもきちんと聞いて理解するように何度も確かめてくれる。
理解をしてくれる優しい人たちに囲まれていると、なかなか英語が上達しないのも困りものだが・・・
ジャパングリッシュはとてもやっかいだ。
今は小学校から英語教育が始まっていると聞いたことがある。
英語よりも正しい日本語を覚える方が小学生には大切なような気がする。
今は日本語が世界で使われるようになっているから・・・
アメリカに移住して15年目にして初めて、日本人という存在を生かして仕事が出来ている。
日本人は素晴らしい!!
だからこそ、今までよりも日本を勉強している。英語よりも・・・