高級ブティックのようなフランスの八百屋さん

東京で飲食店を営んでいた海は1年の内2ヶ月間、店を閉めてヨーロッパに旅に行っていた。

日本の6、7月は梅雨で一番苦手な季節だが、ヨーロッパは最高な季節だ。

天気が良い日が多く、観光客もまだ少ない。

7月の後半から8月に入ると、ヨーロッパの人たちも夏休みをとるので、ホテルや飛行機代などが高くなる。

気候的にも経済的にも最高な時期なのだ。

15年ほど前、フランス・ブルターニュ地方に友人を訪ねて旅に行った時、ビックリするような八百屋さんに連れて行ってもらった。

最高の出会い

ブルターニュ地方は牡蠣と塩の名産地である。

友人はフランス人舞台演出家で、奥さんはイギリス人振付師という格好の良いご夫婦だ。

友人というのはおこがましいが、一度お家に遊びに行かせてもらったので、友人と呼ばせてもらう。

彼の舞台の大ファンで日本で公演をするたびに観に行っていた。

ひょんなきっかけで、彼の舞台を日本に呼んでいる興行や?の人がお店に来てくれるようになった。

「彼と彼の舞台に出ている演者の人をお店に招待したいと思っているのですが・・・」

ダメ元で言ってみたら、現実となった。

素晴らしい舞台を観せてくれた感謝を込めて、東京で公演をしているときに2回ほど彼らを招待した。

すると演出家の彼が、パリの住所とブルターニュの住所とメールアドレスを置いていってくれた。

「今度ヨーロッパに遊びに来るときは、ぜひ連絡をください」

という嬉しい言葉と共に・・・

もしかしたら社交辞令だったかもしれないが、その言葉を真に受けて本当に遊びに行ってしまった。

まるでおとぎの国

彼のブルターニュの家はおとぎの国のようだった。

車道から林道へ入り、5分くらい車で走ると小さな可愛い家が見えてきた。

森の中の一軒家だ。

フランス人らしく最初は土地を購入し、まずは小さな小屋のような家を建て、そこから自分の時間とお金を当てて少しずつ建て増しをしていったという。

イギリス人の奥さんが庭を自分でデザインをして作り、夢のような家がそこにあった。

車道からも距離があるので、車の音もしない。

近所に家もないので、聞こえるのは鳥と虫の声だけだ。

「わー。こんなところで舞台の構成を考えているから、あんなに素晴らしい舞台が出来るんだ」

普段は湧いてこないような、感情やインスピレーションが溢れてくるような場所だった。

日本好きな彼の家のゲストルームは和洋折衷で、障子なども使っていて日本人にとって、とても居心地の良い空間だった。

朝起きたら庭のテーブルに紅茶とクッキーそしてフルーツが用意してあった。

イングリッシュ・ブレイクファーストだ。

軽い朝食を取った後は、運動を兼ねた肉体労働。

敷地内の木の伐採をして、冬のための薪をつくる。

大きな敷地なので、切った木を運ぶ電動のカートもあった。

汗をかきながらカートに切った木を積む作業をしていたら、カラーン・コローンと鐘の音がした。

お昼の準備が出来た合図だった。

携帯電話など使わず、旦那さんへの合図は庭に設置してある鐘でお知らせする。

お昼は2時間かけて赤ワインと共にゆっくりと進む。

「フランスの食事って本当にこんなに時間をかけて食べているんだ」

もしかしたら、私たちのためのおもてなしだったかもしれないが、滞在させてもらっていた1週間、毎日こんなお昼の時間を過ごしていた。

お昼を食べ終わったらお昼寝タイム。

みな好きな場所で本を読みながらリラックスタイムだ。

友人は庭のハンモックに横たわっていた。

お昼寝が終わると夕食まで仕事。創作タイムだった。

夢のようなホームステイ。

週に1度の買い出し

森の中の友人宅は、車道まで歩いて行くのにも15分くらいかかる。

周りにはお店も何もない。

必要なものは冷蔵庫に貼ってあるメモにリストを作り週に1度、金曜日に買い出しに行く。

まずはファーマーズマーケットに行って、農家の人から直接牛乳とチーズと肉を買う。

チーズはフランス人には不可欠だ。

前菜としても、デザートとしても食す。

肉も新鮮な塊を買って、自分で切って保存をする。

魚が欲しい時には、漁師さんが水揚げするところに直接行って、値段を交渉して買ってくる。

次に大きなスーパーマーケットに行って、日用雑貨を買う。

そして最後に八百屋さんだった。

お花屋さんのような可愛い外観の八百屋さんだった。

「海、勝手に入っちゃダメよ。担当の人が来るから待ってて」

八百屋さんに入って品定めをしようと思ったら、イギリス人の奥さんに止められた。

「海は何を作るつもりなの?欲しいものを言ってみて」

海は材料を見てから何を作るのか決めるタイプなので、何を作るのかは考えていなかった。

「今の旬の野菜が欲しいです」

八百屋さんの中には3人の従業員の人が働いていて、一人ずつ丁寧に接客をしていた。

友人の担当の人の手が空き、やっと順番が回ってきた。

小一時間は待っていたような気がする。

フランス人(奥さんはイギリス人だけど)は気が長い。

「ボンジュール・マダム。今日は何がお目当てですか?」

ここから雑談が始まった。

「前回買ったものであれを作った、これを作った」

「何か新しいレシピはないかしら・・・」

そしてお互いの近況報告。

ここでも20分ほど経過。

いよいよ海も参加させてもらえることになった。

美味しそうなトマトがあったので手に取ろうとすると、また止められた。

「ダメよ、勝手に触っちゃ」

「欲しいものがあったら言ってね。奥から試食品を持ってきてくれるから」

買う前に野菜の味を見るために、必ず試食をして買う。

15年ほど前なので、何を買ったかは忘れてしまったが、6月のフランスの旬の野菜とフルーツを買ってもらったような気がする。

フランスではこんな八百屋さんが普通なのか?ブルターニュの八百屋さんがこういう感じなのか?友人がこういう八百屋さんが好きなのか?分からない。

でもはっきり分かったことは、フランス人は日本人よりも食を大切にしているということ。

食材はよく吟味して、決して妥協して買い物をしないし、無駄なものも買わない。

食事の時間もとても大切にしている。

海が目指しているスローライフだ。

 

日本も昭和の時代は八百屋さんがあって、お料理なども教えてくれた。

八百屋さん、お肉屋さん、魚屋さん、豆腐屋さん、牛乳屋さん、商店街にはみんな揃っていた。

アメリカに住んでいると、アメリカみたいな大型スーパーがどんどん増えている日本にガッカリする。

また商店街が復活する日がいつか来ないかな〜と思っている。