アメリカでのご近所付き合い

海が住んでいるアパートは12世帯。

2015年6月から住み出して、変わらない住人は海たちを含め4世帯だけ。

あとはかなりの頻度で変わっている。

 

大好きなウィリーおじさんは、古株の住人だ。

子供たちはすでに離れ奥さんと2人暮らしで、奥さんのお母さんも階違いに住んでいたが、去年、バリアフリーの公営アパートメントに引越しをした。

ウィリーも公営アパートの入居を聞いてみたが「収入が多すぎて入れないと言われた」と、とても残念そうだった。

ウィリーの奥さんは病気のせいなのか?かなり太っていて、今のアパートでの生活が困難なのだ。

一人ではアパートから出ることはできないし、ウィリーのサポートでも無理だ。

病院に行く時は消防車か救急車の隊員にきてもらい、ウィリーの車に乗せてもらっているらしい。

そんな奥さんと奥さんのお母さんの面倒を一人でみている。

家事はもちろん、義理のお母さんのための買い物もして、ちょこちょこ通って様子をみている。

そんな彼から一切の愚痴を聞いたことはないし、いつもにこやかで彼が発する言葉はポジティブなものばかりだ。

 

バレンタインデーの日、海はちかくのイタリアンでティラミスを買って家に帰った。

そのティラミスが小さい上に崩れていて値段に見合う代物ではなかった。

アパートの駐車場に車を停めたら、ちょうどウィリーも仕事から帰ってきた。

「ウィリー見て、このティラミスが$5.25だって」

「それは高すぎる」

こんな会話の後に

「実は先週の月曜日にワイフが亡くなったんだ」

思わず絶句した。

アメリカでは旦那さんが奥さんに花などを送ったりするので、ウィリーは奥さんのために何か買ったかを聞こうと思っていたからだ。

奥さんは立ち上がろうとした時に足を挫いて動けなくなり、病院に運ばれてから亡くなったそうだ。

直接の原因はわからないが1年ほど前から入退院を繰り返していたので、寿命で天に召されたのかもしれない。

「もし私にできることがあったら何でも言ってね。もし食事を作りたくなかったりしたら、私が作るからね」

「ありがとう。じゃあたまにはチャイニーズフードでも試してみるか!!」

「ウィリー、私はジャパニーズだよ。でもウィリーにはアメリカンフードを作るから安心して」

奥さんが亡くなっても、笑顔でいつも通りのウィリーおじさんだ。

 

次の日の夕方、仕事から帰ったらまたウィリーと一緒になった。

「あと4年で定年だよ。あともう少し」

「定年した後、どうするの?」

「1日中TVを観て過ごすよ」

「えーー、ウィリーが?1日中家でTVを観ているの?」

「嘘だよ。副業の洗車の仕事をするよ。夏には忙しい時1日に$300から$400は稼げるからね。たまに洗車の仕事をすれば、十分に暮らしていけるよ」

「来月になったら1週間ほどバケーションをとろうと思っているんだ。もう一人だから海の近くでのんびりしてくるよ」

動けない奥さんがいたから、ウィリーは泊まりではどこにも行けなかったらしい。

去年は奥さんが入院している時に、違う州に住んでいるお姉さんのところに9年ぶりに泊まりで行ってくると言っていたのを思い出した。

 

ここのアパートはトラブルが多々ある。

家賃が他と比べて安いせいか、問題がある家族が引越しをしてくることも多くて、警察が出動する騒ぎがあったもする。

家賃が払えなくて追い出されるケースも多い。

そんなアパートに長く住んでいる住人同士はとても仲が良い。

困ったときはいつでもすぐに助けてくれる。

それでも頼りすぎず、干渉しない関係がとても心地よい。