年間行事の中で一番好きではないものは、バレンタインデーである。
10代の頃はそれなりに本命、義理チョコというものを買っていた。
20代になってからは馬鹿らしくなり、バレンタイン商戦に乗るのはやめた。
この時期日本では世界中の美味しいチョコレートが売られるので、チョコレート大好きな海は自分のためには買っていたが、プレゼントは一切しなかった。
アメリカでは男の人が花などを送ることが多い。
チョコレートを送るという決め事もないし、女→男という決め事もないし、ましてや、義理で送るなんてことは皆無だ。
だから日本にいた時ほど毛嫌いはしていないが、それでもあまり好きではないイベントに変わりはない。
「ティラミスを買って帰ろうか?」
仕事帰りに夫の空に電話をした。
「えっどうしたの?」
「バレンタインデーだから・・・」
ただたんに久しぶりに食べたかっただけだ。
近所のイタリアンレストランのティラミスを買いに寄った。
海たちが引っ越しをしてきた6年半前は、値段が安くて美味しいピッザリアという感じのお店で、月に1、2度は食事をしていた。
しかし少しずつ値上がりしていた。
2年前コロナの大流行でレストランのキャパ規制があった頃、しばらくお店を閉めて大改造した。
ピッザリアというより、レストランという雰囲気になり、値段もますます上がった。
一番高くなったのは、パスタだ。
スパゲティ・マリナラソースは$6台で食べられていたのに、今は$9.95だ。
デザートはあまり食べないので、値段を把握してなかった。
「テイクアウトでティラミスを1つ頂戴」
「オッケー、$5.25です」
「えーーーーー」(心の声)
そんなに高いとは思わなかった。
しかもアルバイトの女の子が、入れ物の端っこの崩れている小さなピースをコンテナの中に入れた。
日本ではお金が取れないような代物だ。
久しぶりに大きな衝撃だった。
「ティラミスを買うのは今回最後にしようね。これからは食べたい時は私が作る!!」
次の日にガソリンを入れようとクレジットカードを出そうと思ったら、ない。
ティラミスを買った後は買い物をしていないし、カードを使っていない。
空に急いでカード会社に電話をしてもらって、止めてもらった。
久しぶりの大失態だ。
お金を払った時にカードを自分で機械に刺したところまでは覚えているが、その後はどうしたか?全く覚えていない。
それくらい、ティラミスの値段と形状が衝撃だったのだ。
バレンタインのイベントが好きではないのに、ティラミスを食べる口実にしたバチが当たったのだ。
「もうバレンタイン商戦には絶対に乗りません!!」
心に決めた。