海は水耕栽培のハウスの仕事で洗い物をしていた。
去年までは、小さなシンクの周りにはバケツやはさみ、水耕栽培で使うフィルター、いろいろなものが散乱していた。
やりっ放しのパナシちゃんがいっぱいいるので、どんなに片付けてもいつも汚れてしまう。
レタスを収穫するときに使うバスケットも使った後に水拭きをするだけなので、1週間使うと汚れが目立つ。
1週間の仕事の終わりの金曜日にブリーチを使って洗うのが海の仕事になっていた。
去年、家の近所で日本人の人と出会った。
日本人なんてほとんどいないこの地域に、目と鼻の先に日本人が住んでいた。
話を聞くと病気をしていて、引っ越してからほとんど外に出ていなかったらしい。
アメリカ人の旦那さんが軍を引退して、家族が住んでいるこの街に引っ越してきたという。
彼女の日本の実家はジャガイモの農家さんで、海が畑で働いているというと、働きたいと言い出した。
3年間も寝てばっかりの生活をしていたというので心配したが、最初からフルタイムで働き出した。
彼女の病気は肉体的なものではなく、精神的な強迫性障害というものらしい。
最初の子供を産んだ時に突然発症して、それからかなり辛い思いをしてきたという。
強迫障害とは、頭に浮かんだことが離れずに何度も同じ確認を繰り返してしまうらしい。
彼女は頻繁に手を洗い、作業中に使う手袋を何回も変え、「今それをやらなくてもいいでしょう」と思うことでも、やらずにはいられないという。
「○○は全然仕事をしないで、手ばっかり洗ってる」
「仕事をしないで掃除ばかりしている」
メキシコ人の同僚がいつも愚痴をこぼしていた。
スペイン語でうまく説明ができないので
「彼女は掃除が好きなんだよ」
「ちゃんと仕事をするように言っておくからね」
と言って、間に入りながらなんとか1年間が過ぎた。
彼女が働きだしてから、いたるところにゴミ箱(段ボールの)が増え、シンクの周りも整理整頓され、手を洗う石鹸はいつも補充されていて、手拭き用ペーパータオルもいつでもストックが置いてある。
ボスも掃除のことはほとんど彼女に頼むようになり、お掃除担当者のようなポジションになっている。
「仕事をしない」と文句を言っていたメキシカンの同僚たちも、何も言わなくなってきた。
パナシちゃんも前より少し片付けをするようになっている。
そして水耕栽培のハウスの中が、いつも綺麗に保たれている。
最初は怪訝な顔をされ、仕事をしないと非難されていた彼女だが、今ではなくてはならない存在になっている。
綺麗な職場が当たり前
嬉しい限りだ!!