「来た時よりも美しく!!」
子供の頃このスローガンは、山やキャンプ場、公園など公共の場所に掲げてあった。
小学校の遠足の時なども、先生から言われた記憶がある。
自分たちが訪れた場所、そして使った場所などを元よりも綺麗にして帰ろうという、この精神が日本人の素敵なところである。
日本の学校では放課後、生徒が自分たちの使った教室や廊下、トイレや階段、体育館までも掃除をしている。(今もそうなのであろうか?)
海の友人のジョンは元中学、高校の教師で、早期退職をして今は自分のやりたいことをしながら楽しんでいる。
彼は石川県と東京の学校に研修旅行で行った経験があり、日本の子供たちが掃除することにとても感心をしていた。
そして生徒たちがとてもお行儀がいいことにも驚いていた。
「日本が綺麗なのは、みんな子供のころからちゃんと掃除をしているからだね」
ジョンは汚いアメリカの教室や平気で机の上に足を投げ出しながら質問をしてくる生徒たちに辟易していた。
「みんな平気で道路にゴミを捨てるんだね」
海がアメリカに移住して大都会に住み出して間もない頃に、アメリカ人の友人に言った。
「あまりお行儀は良くないけど、『掃除をする人の仕事を作っている』とも言えるよ」
その時は、そういう考えもあるのか・・・と思った。
海が働いている農場も2週間に1度、オフィスと従業員休憩所(トレーラーハウス)に掃除に来てくれる夫婦がいる。
土曜日も働くようになってからその夫婦を見るようになったが、それまでは畑の従業員の誰かがやっているのだと思っていた。
「ヘザーありがとう。いつも掃除をしてくれていて」
海はてっきり、マネージャーのヘザーが掃除をしてくれているのかと思っていた。
掃除は海がやるか、ヘザーがやるか?どちらかしかいないからだ。
「海がそう思ってくれているのはとても嬉しいけど、私じゃないんだ。お掃除の人に来てもらっているんだよ」
数ヶ月前から、海は休憩所のトイレ掃除をするようにした。
あまりにも汚くて使う気が起きないからだ。
掃除をしてもらっても、1日であっという間に汚くなってしまう。
特にメキシカンの人たちは、トイレットペーパーをトイレに流さない。
ゴミ箱に捨てる。
ゴミ箱がいっぱいでも、あふれてもそのままなのだ。
週に1、2度ゴミを捨てたり、トイレットペーパーを補充したり、毎日洗面台をきれいにして、汚れている時は便器も磨く。
それを続けていたら変化が起きてきた。
みんなあまり汚さなくなったのだ。
その上、トイレ掃除を海がやっていることを知ったメキシカンのボス・ロベルトは、泥で汚れた休憩所の床を女の子たちと掃除をしてくれた。
少しでも影響を与えられたことがとっても嬉しい!!
最近、日本の歴史や日本人としてのあり方などを勉強している。
そして夫の空とも、日本人として・・・ということを話し合ったりしている。
ちょっと前までは、「やっぱり日本に帰るべきなのかな?」なんて考えることもあった。
しかし今は、自分たちの「あり方」がはっきりしてきた。
「日本人として誇りをもって生きていくことで、日本の良いところをアメリカ人に伝える」
縁があってアメリカに住んでいるのには意味があるような気がしている。
ずっと住みたいと思っても住めない人もいる。
移住をしてきても、すぐに日本に帰国する人もいる。
海はとっても不思議な縁でアメリカにいるような気がしている。
「もうダメだ。日本に帰ろう」と思ったり、実際に日本に帰っても、その後にとてもラッキーなことが起こり、アメリカに呼び戻されているように感じるからだ。
空と一緒にアメリカのこの田舎町で小さなビジネスを始めようと準備をしている。
今までは無理だと思っていたが、今ならできる気がする。
このビジネスを通して、日本、日本人をもっと知ってもらいたいと思っている。
戦後の日本は欧米に憧れて西洋的な生き方になってきた。
今度は逆に「この日本人夫婦は素敵だな」と思ってもらい、日本人的な生き方が少しでもアメリカ人に伝わったら嬉しい限りだ。
そんな大きなことを考えて、この田舎の地で暮らしていこうと思っている。