一家の大黒柱になった海は、仕事をかなり頑張っている。
とは言っても、子供はいないしアラフィフ夫婦の2人暮らし。
特別な出費がなければ、海の稼ぎでも十分にやっていける。
それでも年末はいろいろと出費が多いので、週に65時間は働くと決めている。
今までの最高は67時間、今は農場で一番長く働いている!!と思っていた。
露地栽培のメキシカンのボス・ロベルトは、6月から10月くらいまで1日14時間休みなしで週に7日間働いていた。
今は日曜日はお休みだし、最近の出勤時間は7時だ。
日の出が7時15分くらいなので、7時過ぎないと外での仕事は出来ない。
海は5時45分か6時に出勤している。
帰る時間はロベルトとほぼ同じか、彼より遅く帰る日もある。
「もしかしたら、この農場で今一番、私が働いているかも?」
と、ちょっと自分を誇らしく思っていた。
「オラ、おはよう海。何をしているの?」
めずらしくロベルトが6時15分頃に作業場にやってきた。
手にはドーナッツが入った4つの箱。
「ロベルト、まさかドーナッツ作っているの?」
「うん。週に2日、火曜日と木曜日はドーナッツ作っているよ」
「まさか2時から?」
「もちろん」
海が働いている農場は、今年の10月に直営店のグロッサリー&ベーカリーのお店を開店させた。
そこのベーカリーではドーナッツがナンバーワンの売り上げらしい。
営業時間は午前6時半から午後6時までだ。
ベーカリーのスタッフは、午前2時に出勤している。
まだオープンして2ヶ月も経っていないのに、2人も辞めたと聞いた。
今仕事をしていない夫・空にも海のボス・ヘザーからオファーが来た。
「海の旦那さんがもし仕事を探しているようなら、ベーカリーで働くのはどう?」
夜型人間で、今まで午後2時から午前0時というシフトで働いていたので、午前2時からという時間は体的にきつい。
そして夫婦での新たなプランもあるので、お断りした。
まさかロベルトが働いていたとは・・・
ロベルトの下で働いている、マルガリータという女の子はロベルトと一緒に週に2日ドーナッツ作りと、露地栽培の仕事が終わった後2時間、ベーカリーのお掃除に行っているらしい。
凄すぎる。
露地栽培の仕事もまだもう少し収穫をするものが残っている。
普通に午前7時から午後5時まで10時間、雨の日も零下の朝も彼らは外で働いている。
一番長い時間働いてると思っていた自分がちょっと恥ずかしい。
彼らには全然敵わなかった。