海は子供のころから自分のことが大好きだ。
「自分が一番自分のことを好きじゃなくて、誰が一番海のことを好きになってくれるの?」
世の中で海のことを一番好きなのは、両親でも友達でもなく「自分だ」といつも思っていた。
そうじゃないと、自分が可哀想だと思ってきた。
でもこういう感覚はあまり一般的ではないようだ。
海の近しい人たちは、「自分よりも周りの人を大切に」と思ってしまう心優しい人たちだ。
母にも姉にも、「海は自分のことしか考えない勝手なやつだ」と言われたりもした。
だから海は自分のことを「性格が悪い」と思っている。
そんな性格が悪い自分も大好きだ。
今は「自分のことを一番好き」がどれほど大切なことかを分かっている。
なぜなら他の人のことを優先的に考える人たちは皆、苦しんでいるように見えるからだ。
母も姉も、夫の空も友達たちもみんな、情が深くて人のことを一番に考える。
でもいつも悩んでいる。
「海は悩みがなさそうだし、いつもお気楽で良いね」
「うん。いつもお気楽だよ。悩みがないからね」
「ちょっと嫌味半分で言ったんだけど・・・」
嫌味を言われても、本当にそうだから嫌味にさえ聞こえない。
心優しい空は、海のことを一番に考えてくれている。
「空が幸せなら私も幸せだから、自分のことを一番に考えて」
いつもお願いしていることだ。
でもこれが難しいらしい。
どうしても自分より相手のことを優先してしまうのだ。
空の目がまた、運転できないくらい悪くなってしまった。
今空が家で「主夫」をしてくれているのは、目が悪くなって仕事や運転ができなくなってしまったからだ。
仕事を辞めてストレスから解放されたら、少しずつ目も見えるようになり運転ができるくらいにまで回復した。。
「海が偏頭痛がするって言っていた時、可哀想に思って『俺はいいから、海の体を楽にしてください』ってお願いしたんだ。だから目が見えなくなっちゃったのかな?」
空のお願いが効いたのか?海の偏頭痛はなくなり、超元気になっている。
でも空の目が見えなくなって運転ができなくなったら、今まで空が行ってくれていた買物や週末の遠出の運転も海がしなくてはならない。
空が健康で幸せであることが、海にとっても幸せなことなのだ。
自分の幸せを一番に考えることは、相手の幸せにも繋がる。
「幸せ」を「お金」に置き換えるとわかりやすい。
何日も食事をしていない友達が訪ねてきて、「1000円貸してくれないかな?お腹いっぱいになったら、仕事を探してお金を必ず返すから」
1000円くらいならあげたいし、お腹いっぱいにもしてあげたい。
でも自分がそれを与えられるだけ持っていなければ、友達を助けてあげることはできない。
2000円持っていれば、自分も友達もお腹いっぱいにできる。
自分が1000円しか持っていなかったら?
自分が500円しか持っていなかったらどうする?
自分の周りの人を幸せにしたいと思ったら、その人よりも幸せじゃないと幸せにできない。
だからまずは自分のことを一番に考えることは決して悪いことではないのだ。
いや、自分のことを一番に考える方がみんなのためになるかもしれない。
海のように「自分が一番好き」と思えなくても、自分のことを一番に考えることならできるのではないかな?
海の周りの心優しい人たちが、どうか自分のことを一番に考えられるようになりますように・・・