アメリカに移住してきて13年目、今までずっとよそ者の感じがしていた。
都会に住んでいた時と比べ、この田舎町は人がとても優しい。
みんな気軽に話しかけてくれるし、話も聞いてくれる。
それでも地域に馴染んでいない、どこかお客さん扱いされているような感じがしていた。
でもそれは、海の心の問題が一番大きかったことに気がついた。
お客さん扱いをされていたのではなく、自分自身がこの土地に腰を下ろすつもりがなかったのだ。
長く住むつもりは全くなかった。
この場所は人生の通過点だと思い、アメリカでの最終目的地はハワイと思っていた。
ところが世界中のパンデミックが収まる気配がみえないこと、夫の空が仕事を辞めたことで、人生設計を立て直す家族会議を開いた。
「自分たちがこれからずっと楽しく幸せに生きていくためには・・・」が主題だ。
今までずっと無い物ねだりをしていたことに気がついた。
すべてはここにあった。
当たり前にあるものに目が行かず、無いものを必死で自分のものにしようとしていた。
そして、ここにずっと住み続けることを決めた!!
自分たちは国籍は変えるつもりはない。
日本人だ。
だからこの先、日本に帰ることはあるかもしれないが先のことは考えずに、ここで楽しく幸せに生きていくことだけを考えることにした。
すると変化が・・・
半年ぶりくらいに空とファーマーズマーケットに出かけた。
海が働いている農場も出店している。
海も売り子として働いていたので、みんなとは顔見知りだ。
今までも挨拶はしていた。
しかしこの日はみんなの態度が違った。
久しぶりに空と行ったからか?みんながいつも以上に声をかけてくれたり、値引きをしてくれたり、海のことをやたらと褒めてくれたり・・・
ミルク屋さんのボブは、手作りのバターを1つ余分にくれた。
大人気のバターは海が行く時間はいつも売り切れだ。
全部手作業なので、大量生産できない。
とても美味しいので、ある時はみんな2、3個買っていってしまうので、あっという間に売り切れてしまう。
「冷凍庫に入れておけばサンクスギビングまで持つから、1つ余分に持っていきな!!」
あまりバターが好きではない海だが、ここのバターはそのまま食べられるくらい美味しい。
「なんだか知らないうちに、海が人気者になっている気がする」
空はみんなの態度に驚いていた。
海自身も驚きだった。
この日から、急にみんなに受け入れられたような感じがした。
そしてサンクスギビングの週、海が一人でファーマーズマーケットに買い物に行った。
行ったのはいいが、お財布を農場に忘れた。
取りに帰る時間はない。
「お願いがあるんだけど・・・。農場にお財布を忘れてきちゃったんだ。来週払うから、買い物をさせて」
ダメ元でお願いしてみた。
「そんなこと気にしないで、必要なものをちゃんと持っていっていいからね」
みんな快くお願いを聞いてくれた。
次の週ホッカイロと黒糖の飴を小袋に入れて、お金を支払うときに渡した。
「ありがとう!!なんてスウィートなの」
みんな喜んでくれた。
卵屋さんはお金をとってくれない。
「先週の分はいらないよ。今日買った分だけでいいから!!」
ちゃんと信用されて、このコミュニティの一員になれた気がしてとても嬉しい。
みんなの態度が変わったのは、海が変わったからだ。
ずっとこの街に住むと決めたから、この土地からも歓迎されたのかもしれない。
仕事もある、素敵な仕事仲間もいる、少ないが友達も出来た。
これだけあれば十分だ。
そしてこれから、空と一緒にこの街の人たちを笑顔にする計画を立てている。
日本人として、日本人の誇りを持って、この町にもっともっと溶け込んでいきたい!!