チームワーク、チームプレイ。
あまり好きではないと口では言っていながら、学生時代の部活動はバレーボール。
仕事も長いあいだ飲食業に携わっていた。
飲食店を営んでいた経験から、飲食店経営はお客さんを含めチームワークと言える。
若いころは今以上に人の好き嫌いが激しかったので、チームワークは苦手だと思い込んでいたが、実は大得意だった。
プライベートでは好きな人としか付き合わない。
特に食事に行く時は、大好きな人としかいかない。
食事をするときに「気を遣う」という行為がとても嫌なのだ。
でも仕事やスポーツとなると、自分の好き嫌いは言っていられない。
「目的を達成する」というゴールに向かって、みんなで頑張る時に必要なのは「良いムード」である。
険悪なムードでは、絶対に良い結果は生まれない。
自慢のようになってしまうが、実は海はムードメーカーだった。
水耕栽培のハウスで働いていたが、2週間前から念願の露地栽培の担当に異動ができた。
まだ外の仕事があまり忙しくないので、週に一度ほどはハウスからお呼びがかかる。
海と交代でハウスに異動になったのは大学生のアルバイトの3人の女の子。
ハウスの仕事は単純な流れ作業。
長いトレーで栽培されたレタスを運ぶ人、レタスをトレーから取り出して根や外側の葉を取って綺麗にする人、綺麗になったレタスをプラスティック製のコンテナにパックする人、長いトレーを洗う人、4部門に分かれる。
トレーを運ぶのは結構な重労働なので、男のアーロンが担当してくれる。
アーロンがデリバリーに行く火曜日と金曜日は経験豊富で仕事が早いメキシカンのオラリアとメルセデスのどちらか。
パッキングは手作業の早い、メキシカンのこの二人と海がメイン。
そしてトレーを洗うのは、日本人のMさんと海ペアか、メキシカンペア。
海がハウスで働いていた時は指示を出して、もともと居る学生のアルバイトの子たちにも順番でやってもらっていた。
一番大変なトレー洗いは、自ら進んでやってくれる学生の子たちはいない。
海と交代でハウスに行った3人の学生ちゃんたちは、2週間経っても一度もトレー洗いをしていないとMさんから聞いた。
誰も教えようとする人がいないのだ。
ハウスの中の雰囲気は最悪だった。
ベテランのメキシカンの二人はイライラしながら仕事をしている。
Mさんは黙々とトレー洗いをしている。
異動になった学生ちゃんたちは、携帯電話をいじったり、床にしゃがんだりしながら、やる気がない様子でレタスを綺麗にするポジションにいる。
殺伐とした雰囲気の中で仕事をするのは、とても耐えられない。
ちょっと流れを変えようと、3時間トレー洗いをした後にマネージャーのマットに「学生ちゃんたちにトレー洗いを変わってもらっても良いかな?」と聞いてみた。
マネージャーのマットはとても性格が良いのだが、リーダーシップがなく、どんな状況でも見て見ないフリをしている。
人に指示をするのがとても嫌な人なのだ。
「別にいいけど、仕事は遅いよ」
そんなの当たり前だ。
誰も仕事を教えていないのだから、最初からできるはずはない。
でもこんなギスギスした空気の中で仕事するのは気分が滅入る。
単純な流れ作業は、気分良く仕事をしないと疲れだけが増してくる。
「俺が言うから良いよ」
めずらしくマットが自分で言ってくれるという。
この日に働いていたのは3人のうちの2人、オードリーとアリシア。
彼女たちに代わってもらった途端、流れ作業の流れが止まってしまった。
やる気のない彼女たちは、トレーをどういう風に洗っているのか?観察をしているわけもなく、2本、3本とトレーが溜まっていく。
「こりゃダメだ」
Mさんに「やっぱりダメでしたね。また二人でやりましょうか?」と言ったら
「これが終わってからで良いですか?」という返事。
この一瞬で考えが変わった。
「自分でやるのは簡単だけど、彼女たちに教えないと何も変わらない」
「オードリー、私と一緒に洗ってくれる?簡単なやり方を教えるから。オードリーの後アリシアに代わって、アリシアにも教えるから!!」
「OK!!」
結構軽い返事が返ってきた。
ノリはいい子たちかもしれないと直感で、軽く楽しい気分になるような説明をした。
「トレーを洗うのは有酸素エクササイズのようなもの。リズムが大事だよ。あなた達は痩せる必要なないけど、結構良いダイエットになるよ」
と体を横に振りながら、ジェスチャー付きで言った。
「うん、そうかもね」
またしても、ノリの良い返事が返ってきた。
オードリーがコツを掴んできたところで
「イイねその調子、あとは最後に表面をこういう風に綺麗にして!!」
と段階的に、乗せながら教えていった。
ノリが良い子に教えるのは簡単で早い。
「オードリー、アリシアに代わって。今度はアリシアと一緒に洗うから」
「海、大丈夫だよ。もう私は洗い方がわかったから私がアリシアに教えるから!!」
今までやる気がなさそうに働いていた子たちが、ちょっとだけ楽しんでトレー洗いをしてくれている。
流れ作業の雰囲気が一気に変わった。
「チームワークはこれじゃないと!!」
流れが変わったところで海はお役御免、露地栽培の仕事に戻った。
「海お疲れ、今日は外が気持ちいいからランチまで外の作業をする?」
「ごめん、ちょっとリラックスさせてくれる?」
ムードメーカーはいつも以上に自分をハイテンションにして、いつも以上に動作を早く、頭と体をフル回転させるのでエネルギーを消耗する。
「珍しいね、海がリラックスしたいなんて言うのは。ハウスの子供達が大変だったんでしょう?」
ずっと彼女たちと一緒に働いていた露地栽培のマネージャーのヘザーは、何もかもお見通しだ。
「本当はマットがやらなくてはいけない事をやってくれてありがとう。ランチまで1時間弱だから、好きなようにリラックスして。座ってステッカー貼りをやっててもいいよ。のんびりしてね」
ヘザーにハウスでの出来事を説明していて「自分はムードメーカーなんだ」と気付かされた。
チームワークではムードがとても大切。
いつもムードメーカーになっているから、エネルギーを消耗しすぎて「チームワークは好きじゃない」と思っていたのだ。
ムードが良くてみんなで目標達成をした瞬間は、とても気分が良い。
本当はチームワーク、チームプレイが好きなのだった。