母への手紙

連絡が途絶えた姉から連絡が来た。

「もう無理なので、お母さんを施設に入れる方向で考えています。お母さんに万が一のことがあっても今の海には連絡しません。もう関わることもないと思うので、海は自分の幸せのために生きてください。返信はいりません」

 

どうしても日本に帰ってきて欲しいと思っている姉には、どんな言葉をかけても通用しない。

海がコロナの前のように、日本に定期的に帰って姉の手伝いをすることしか解決策はない。

それが出来ないので、もう姉には何も言わないことにした。

とにかく感謝の言葉だけを伝えていたら、「感謝の言葉などいらない」という返事だ。

姉はここまで関係がこじれたのは自分に原因があるのなら自業自得とも言っているが、海にとってはまったく関係がこじれていない。

ただ姉の要求に応えられない現実があるだけだ。いたってシンプル。

こじれているのは姉の感情だけで、それに気がつかなければ、またいつかは同じことが起こる。

解決策は簡単だ。

今まで通りに姉の思い通りにことを進めるように、海が行動すれば良いのだ。

でももうそれを止めた。

嫌われたくない、自分を分かって欲しいという子供の頃からの思い癖で今まで妹を演じてきたが、それをやめたから姉にとっては急に変わってしまった海となっている。

 

母は姉を甘やかしてしまった。

喧嘩しながらも家事の一切を引き受け、結婚せずに家から離れない姉が困らないように見守り続けた。

介助が必要なほどの後遺症が残り、今は一人では何もできなくなってしまった母なので、今度は姉が母を支える番なのだが・・・

今まで母がやってくれていたことを海に求める姉。

母が怪我をしてからの1年半は、日本とアメリカを行ったり来たりしながら二人のサポートをしていたが、コロナパンデミックで日本に帰るのが難しくなった。

そしてコロナが収まった今は海が大黒柱になっているので、簡単に日本に帰るわけにはいかない。

姉の性格は難しい。

こちらの状況を言っても、ますます姉の愚痴を聞くことになるのが分かっているので、何も言わずに「今は帰れない」ということだけしか伝えてない。

 

白か黒、0か100の尺度でしか物が考えられない姉は、海との関係を0にすることを選んだ。

自分でもその性格は変えられないと言っているので、100を求めるか?0にするしかないのだろう。

海は母に手紙を書くことにした。

姉のことは一切触れずに、母に伝えたい母への愛と感謝の言葉を書いた。

もし母とこのまま会えなくても後悔しないように、母が海のことを心配しないように、出来る限り明るく前向きなことだけを伝えた。

今の海ができる親孝行は、心配をさせないことだけだ。

元気だった時の母とは違い、どこまで海の気持ちが伝わるかはわからないが「今できることをやる」しかない。

人間関係で一番難しいのは血の繋がった家族の関係。

これは超える、超えられないという問題ではない、絶対に避けられない人生勉強なのかもしれない。