感謝祭の早朝 幻のような出来事

アメリカに移住してから14回目の感謝祭、サンクスギビング

日本人にはあまり馴染みがないので、七面鳥も食べたことがなかったし、いつもよりちょっと豪華な夕食を作ることしかしてこなかった。

今年の感謝祭は、以前住んでいた大都会に旅行に行くことになった。

海が働いている農場の野菜を都会の人たちに食べてもらうという企画を立てて、企画書をもって売り込みに行くビジネストリップ。

まだ会ったことのない同じ歳のビジネスウーマンの人を紹介してもらい、事前にやりとりをしていたが、実際に会ってみなければ話は始まらない。

普通の人にとってはとても忙しいサンクスギビングだが、仕事が休みになり子供がいない日本人夫婦にとったら、時間がたっぷりとある。

ダメ元で聞いてみた。

サンクスギビングの日にお会いすることはできますか?」

なんとあっさりとオッケーだった。

サンクスギビングの当日は早くにお店を閉めるので、彼女にとっても都合が良いとのことだった。

 

夫の空に聞いてみた。

「イザベラとジョニーの家に泊まらせてもらえないかな?」

イザベラは空の元奥さん、ジョニーは彼女の今の旦那さんだ。

ずっと仲良い関係を続けている。

今の田舎町に引っ越す前は近所に住んでいたので、お互いに助け合いながら過ごしていた。

彼らの家に2泊させてもらえることになって、空の大昔からお世話になっている先輩のところへ挨拶に行く計画を立てて都会に向かうことになった。

 

サンクスギビングの当日、都会の渋滞を避けるために朝3時に出発することにした。

6年ぶりの都会への旅は、朝が強い海の運転でスタート。

渋滞がなければ4時間もしくは、4時間半で着く。

いつもより睡眠時間が短かったので、眠気覚ましのために濃いコーヒーを出かける前に飲んだので、1時間半くらいたったところで急にトイレに行きたくなった。

運悪く目指していたサービスエリアがクローズ。日本とは違い無料で利用できるハイウェイを一旦降りることにした。

降りたのは良いが、ガソリンスタンドもお店も何もない。というか、朝4時半から開いているお店などないし、ましてはサンクスギビングの日は多くのお店はお休みだ。

我慢がギリギリになったところで、一軒のダイナーを発見。

ダイナーは日本でいうファミリーレストラン

都会では24時間開いているが、田舎で開いているのは珍しい。

サンクスギビングの朝4時半という時間なのに、お客さんがいた。

カウンターに若いカップルと一人のおじさん。

テーブル席にも一人のおじさんが座っていた。

若い笑顔の素敵なウェイターの男の子がウェルカムしてくれた。

トイレを借りたいことと、コヒーをテイクアウトで2杯注文したいことを伝えたら、

「今からフレッシュのコーヒーをおとすから、少し待ってて」と嬉しい返事。

二杯分のコーヒーくらいは残っていたが、新しく淹れ直してくれるなんてそれだけでラッキーという気分だ。

二人ともトイレを借りて待っていると、お兄ちゃんは笑顔でコーヒーを持ってきてくれた。

「クリームとシュガーは要る?」

「ブラックで大丈夫。いくらになりますか?」

「今日は来てくれてありがとう。これは僕から。お金はいらないよ」

「いやいや、そんなわけにはいかないよ。ちゃんとお金をとって」

「本当に来てくれただけで嬉しいよ。もしだったら、そこにあるテイクアウトのメニューを持って行って。」

「わかった。じゃあ、必ず戻ってくるからね。本当にありがとう」

この笑顔のお兄ちゃんはチップも受け取らなかった。

 

人から優しくされた経験はたくさんあるが、こんな特別な日にしかもお店の人からこんな嬉しいことをされたのは初めてだ。

コーヒーポットに残っていたものを無料でもらうのなら、まだなんとなく自然に受け入れられるが、わざわざ新しいコーヒーをおとしてくれて、しかもそれを無料でくれるなんて・・・・

 

今回の2泊3日の旅は、すべてが上手く行くと確信した。

そしてその通りになった。

ありえないようなことが次々と起こり、最高な旅となった。

ビジネスの話も企画書通りには行かなかったが、もっと可能性のある話に発展した。

家に着くまで良いことしか起こらず、すべてがスムーズに物事が進んだ。

 

なんだかあのダイナーでの出来事は幻だったような、空と二人で一緒に見た夢の中の出来事だったような、とても不思議な気分だ。

こんなことが起こるようになったんだな〜〜〜〜〜