アメリカど田舎 散髪事情

海と空は短髪だ。

もちろん、海の短髪は格好良く言えばショートヘアだ。

都会に住んでいた時は二人ともそれなりにお金をかけていた。

日本人が経営している美容室があったからだ。

アメリカ人の美容師の腕はひどいと聞いていたが、ここまで酷いとは・・・

 

初めてのアメリカのサロン

田舎に引っ越してきて、困ったことは2つある。

1つは日本食スーパーがないこと。

そしてもう1つは、日本人が経営している美容室がないことだ。

海は髪型には無頓着だが、美容師さんはとてもこだわる。

一度気に入ったら、浮気をしない。

東京にいた時は、10年以上同じ人に切ってもらっていた。

信頼しているひとに、全てお任せして切ってもらいたいからだ。

海の髪質、頭の形、普段の服装、生活スタイル・・・全てをわかってくれている人に、お任せして切ってもらうのが海のスタイルだった。

「今回は超短くして」

スッキリしたい時、たまにベリーベリーショートにしたくなる。

そんな時にだけ、一言だけ注文をするのだ。

それが出来なくなると結構困る。

 

思い切って近所のヘアサロンに行ってみた。

経済的に全く余裕がない時だったので、お金はかけたくない。

とりあえずいくらで切ってもらえるか聞いたみた。

$20+チップだった。

「$20くらいだったら、失敗してもいいか。」

海は切ってもらうことにした。

担当してくれたのは黒人の若い女の子だ。

海はあらかじめ、したい髪型をインターネットで探しておいて見せることにした。

言葉で伝えるより、実際に見せた方がイメージが直接伝わると思って・・・

黒人の女の子は、鼻歌交じりに切り出した。

「バッサ、バッサ」

すごい量を切っていく。

「ひどくなったら坊主にすればいいや」

半分やけっぱちになっていた。

海は若い時一度、坊主頭にしたことがあるのであまり抵抗はない。

黒人の女の子は、なんだかはしゃいでいる

「すごく良い!最高よ!!」

海の髪型は悲惨だった。

$20も惜しくなるほど、今までの人生の中で一番最悪な髪型になっていた。

坊主頭よりひどい。

「もう二度どサロンには行かない。空、これから私の髪の毛を切って!」

 

お互いが専属美容師

空の髪は簡単だ。

バリカンで切るだけだからだ。

それでも3つの長さの刃を使って、グラデーションを出しながら切っていく。

最近はだんだん上手くなっていき、短時間で格好良く切れるようになってきた。

田舎に引っ越してきてからかれこれ5年以上、空の髪の毛を切っている。

手先があまり器用ではない海でも、上手くなって当然だ。

海の髪の毛を切るのは簡単ではない。

さすがにバリカンで全てを切るわけにはいかないからだ。

日本から買ってきたすきバサミを使って切ってもらう。

 

引っ越してきて最初の3年くらいは、日本に帰るまで髪の毛を切らずに我慢をしていた。

年に2回くらいは帰っていたので、その時に思いっきり短くしてもらって、なんとかやり過ごしていた。

2年ほど前から空にお願いするようになった。

すきバサミを使ったことのない空は、サロンの黒人の女の子のようにすごい勢いで切っていった。

案の定、はちゃめちゃな髪型になった。

人生で2回目だ。

友人の美容師さんにすきバサミのコツを聞き、空に伝えた。

「1回に何回もはさみを入れちゃダメだって。少しずつ様子を見ながらだって。」

最初の頃は切ってもらうたびに喧嘩をしていた。

「俺は美容師じゃないんだから、言われた通りなんて切れないよ。もういやだ!!」

とは言っても空は手先がとても器用だ。

やればやるほど、すきバサミの使い方も習得し、海の髪の毛の癖も把握していった。

「髪の毛を切るのは3次元の作業で面白いな。」

最近は楽しんで切ってくれている。

海はショートヘアだ。

ショートヘアのカットは難しい。

それでも最近は夫に切ってもらっていると自慢できるくらいの腕前になってきた。

もちろんプロの人が見たら下手くそかもしれないが・・・

海は大満足だ。

 

アメリカの田舎に暮らしていると不便なことがたくさんある。

それを夫婦力を合わせて、一つずつクリアしていく。

最近ではどんな不便な場所でも住めそうな気がしている。

お互いが最高の専属美容師だ。