36歳の海はアメリカで私立の語学学校に通っていた。
授業もきちんとしているし、先生たちのレベルも高い。
それに伴い何と言っても授業料が高い。
海が用意していたお金はみるみるうちに消えていく。
韓国人のクラスメートがどんどん辞めていく。
「どうして辞めるの?韓国に帰るの?」
韓国の親は子供の教育にとてもお金をかける。
まるで日本のバブルの時のようだ。
しかし彼らにとっても、私立の語学学校は高い。
「もっと授業料の安いコミュニティカレッジに転入するんだよ。海も考えた方が良いよ。けっこう簡単に転入できるよ。」
短大(コミュニティカレッジ)の入学準備
日本から留学するとき、4年制大学に入るにはTOFLEというテストを受け、そのスコアを大学に提出するのが必須だ。
大学によって必要なスコアが違う。
アメリカ人も4年制大学に入るにはSATというテストを受け、そのスコアを大学に提出しなければならないのだ。
コミュニティカレッジに入るのはもう少し簡単だ。
SATもTOFLEも受けていなくてもコミュニティカレッジに入ることはできる。
入学の書類手続きは語学学校とほとんど同じだ。
留学生は最低でも1年間の授業料と滞在費が払えるだけの預金残高を提出しなければならない。
授業料は地元の学生の倍だ。
書類を提出して、学校からF-1ビザを出してもらう。
入学手続きが済んだら、オリエンテーションだ。
施設の案内、学校説明だ。
そして最後にプレイスメントテストを受けなければならない。
プレイスメントテストは英語と数学。
ここでの英語のテストの成績が十分でなければ、留学生は短大の中にあるELSのクラスに入って、短大の授業についていくための英語力を上げなければならない。
文法、リスニング、そしてエッセイのテストだ。
エッセイが難題だ。
2つのテーマから選べるのだが、きちんとエッセイの書き方の基本にのっとって書かなければならない。
短大に入っても必須の英語の授業ではエッセイの提出がたくさんあるので、エッセイを書くことはとても重要だ。
ほとんどの留学生はエッセイで落とされてのESLクラスに送り込まれる。
短大に入るつもりのない留学生も短大のESLの方が語学学校より授業の質が高いので、ESLに入るのが目的の留学生もたくさんいる。
短大に入るまでにやったこと
海はまずはどこのコミュニティカレッジに入るかを考えた。
プレイスメントテストが難しい学校、簡単だけどあまり環境の良くない学校、先生の質、生徒の質、情報をたくさん集めた。
こういう情報は若い同級生に聞くのが一番だ。
とくに韓国の学生たちは、情報をたくさん持っていた。
そして海はプレイスメントは難しいが、ちょっとレベルが高い学校を選んだ。
学校に行き、アプリケーションフォーム(書類)とプレイスメントテストの参考資料をもらってきた。
書類は問題なさそうだが、プレイスメントテストの数学の例題をみたら、まるでわからない。
学生の頃、数学は大嫌いな科目だった。
しかも高校を卒業してから何年たっているだろう???
「ゆうき、私に勉強を教えてもらえないかな?」
語学学校で出会った京大生の男の子に頼んだ。
彼は京大を休学して留学に来ていた。
語学学校では海よりもかなり上のクラスにいたが、何が理由だったか忘れたが仲良くなっていた。
「ただで教えてもらうのは悪いから、教えてもらう日にランチにおにぎり2個を用意するから1時間教えてくれないかな?」
海は語学学校で毎日おにぎりを売っていた。
京大生のゆうきもたまに買ってくれていたのだ。
「良いよ。プレイスメントテストまであと何日あるの?」
2週間だった。
毎日とはいかないが、時間の許す限り教えてもらった。
ゆうきは日本にいるときは、家庭教師をしているので教えるのがとても上手い。
頭にすんなり入ってくる。
「数学は計算問題を中心にやっていこう。時間がないから、すべてを復習するのは無理。計算問題は点数を稼げるからね。」
海は自分でびっくりするほど、計算方法を忘れていた。
ゆうきは丁寧にわかりやすく教えてくれた。
あっという間に2週間が過ぎ、プレイスメントテスト当日が来た。
ESLから短大までの道のり
海は見事にプレイスメントテストの英語のテストに落ちた。
驚くことに数学は大学生レベルの点数が取れたようだった。
ゆうきのおかげだ。
このおかげで、短大に入ってから数学の必須科目は取らずに済んだ。
いくら数学の成績が良くても英語がダメなら短大に入れない。
ESL行きとなった。
ESLも4段階のクラスに分かれていて、海はレベル2のクラスだった。
そうとう英語力がないのだ。
もう一度プレイスメントテストを受けるには、レベル4のクラスをパスしなくては受験資格がもらえない。
それにはエッセイだ。
エッセイ、エッセイ、エッセイ。
必要なのはエッセイを上手に書ける英語力だ。
ESLの上にクラスに上がるのにもエッセイのテストがあり、3人の先生が読み2人がOKを出さないとパスができない。
「どうやったらエッセイが上達しますか?」
先生に相談してみた。
「とにかく英語の本を読むこと。そして校内にあるライティングセンターに行って、専門の先生に教わると良いよ。」
ESLの学生でも短大の施設を使える。
ライティングセンターには専門の先生が常に5〜6人いて、自分が書いたエッセイを持っていくと添削してくれる。
気に入った先生がいたら、事前予約もできる。
海は年配の女性の先生がとても気に入り、週に1回予約をして添削してもらっていた。
「海、もっと英語の本や新聞を読みなさい。」
先生にいつも言われていた。
海の文章はどうしても日本式になってしまうらしい。
説明や言い回しが長いのだ。
英語はもっと端的に、自分の言いたいことをバシっと主張する書き方をしなければならない。
予約は週に1度しかできないが、ライティングセンターは毎日でも利用できる。
予約なしの時は、空いている先生に見てもらうことになる。
海はエッセイの提出が近くなると、週に2、3回通った。
お気に入りの先生は海を見つけると、予約が入っていなくても優先的に海を見てくれた。
たまには生徒を他の先生にお願いしてまで、海を見てくれてとても嬉しかった。
先生との二人三脚で、ESLもプレイスメントテストにも合格してやっとアメリカの短大生になれた。
1年半もかかってしまった。
短大に入ってからも、ライティングセンターには通い続けた。
英語のクラスでエッセイの提出はもちろんのこと、他の授業でもレポートの提出などがたくさんあり、この先生がいなかったら挫折していたかもしれない。
この先生のおかげでかなり良い成績で単位を取れた。
若い時に留学をすれば、もっと苦労せずに英語力が上がるのかもしれない。
アメリカの短大を卒業してから海が思ったことは・・・
「勉強をしたいと思った時にするのが一番身に付く。年齢は関係ない。」
年齢を気にするのは日本人の良くないところだ。
「やりたい時にやる!!」
短大に入らなかったら、今よりひどい英語力だっただろう。
今でも決して英語が上手なわけではないが、生活してくためにあまり困らない程度の英語力は身についた。
これからも、やりたいことをどんどんチャレンジしていこうと思っている海である。