コメディドラマのような出来事

アメリカに住んでいると、日本ではありえないようなことがよく起こる。

「なんでこうなるの???」

理解に苦しむことも多々起きる。

今回は「本当にそんなことが起きるんだ〜」といった、コメディ?マンガ?のような出来事だった。

 

毎週金曜日は農場の敷地内にあるグロッサリーストアのオープンの日。海が店番の日だ。

今まではオーナーの奥さんのステファニーの担当だったが、来年から彼女は、今まで週3日だけパートタイムで働いていた大学の事務職にフルタイムとして戻る。

海に仕事を引き継いだステファニーは、残り少ない金曜日を自分の時間として用事をこなしている。

なぜかこの日の金曜日は、3人いるメキシカンの同僚もみんなお休み、オーナーのマットと海の二人だけだった。

お店のオープン準備がほぼできたので、マットは買い物に行ってくると出かけていった。

オープン時間の10分前に「もうすぐお店に着くから」と連絡が入った。

その1分後にマットからテキストメッセージや電話が入った。

「海、恥ずかしいんだけど、ガス欠になったらしい。急いでガソリンタンクにガソリンを入れて持って来て!野球場の近くだから・・・」

野球場と言われても・・・海が知っている野球場は1ヶ所しかない。

ガソリンを入れるタンクを見つけて、お店のお金を$10持って、お店の鍵を閉めて、急いで駆けつけた。

マットに電話をして場所を聞いても、ハッキリとした場所はわからない。

一か八かで、海が知っている唯一の野球場に向かうことにした。

その前にガソリンタンクにガソリンを入れなければ・・・

一度もやったことがない。

現金でガソリンを入れるときは、スタンドに併設しているストアのキャッシャーに行ってお金を最初に払う。

「$10だけお願い」

$10では3ガロン弱しか入らない。

タンクのキャップを開けようとしたが、どうやっても開かない。

ストアの人に開けてもらおうと思ったら、ちょうどストアから出てきた若い男のお客さんを見つけた。

「すみません。このタンクを開けてもらえませんか?初めてのことで、どうやっても開かないのです」

お兄さんはニッコリと笑って開けてくれた。

「ここにつまみがあるから、ここを押さえないと開かないようにできているんだよ」

ガソリンは危険物なので、キャップも簡単に開かないように出来ていた。

そんなことも知らなかった・・・

 

野球場は海が走っているハイウェイの反対側なので、どこかでUターンするしかないと思っていたが、野球場の入り口付近に信号があった。

左折するレーンに入って信号待ちをしていた。

アメリカのハイウェイは日本とは違い、いろいろなタイプがあり無料で乗り降り自由。

商業用トラックは利用できないハイウェイ、州をまたぐ大きなハイウェイ、ローカルのハイウェイ。

ローカルのハイウェイは主要道路と交差していることが多いので、信号がある。

 

野球場の周りを回ってマットのバンを探そうと思っていたら、なんとハイウェイの路肩に停まっている白いバンがあった。

「マット、もしかしてハイウェイで停まっている?」

信号待ちをしている時に電話をしてみた。

「うん。海、今どこにいるの?」

「マットから見える交差点で信号待ちをしているよ」

「おーーーー。海の車が見えた。走ってガソリンタンクを取りに行くから、曲がったすぐのところで車を停めて待ってて」

車から降りてハイウェイの路肩を走っているマットが見えた。

左折してすぐに停まってあげたかったが、ハイウェイを降りる車のレーンだったので、そんなところで停まったら危ない。事故の元だ。

野球場の駐車場入り口付近まで行って車を停めて待っていた。

「海、ありがとう。恥ずかしいよ〜。ガソリンのランプは付いてなかったのに、急にガクンとしたから急いで路肩にハンドルを切ったんだ。そしたら動かなくなって停まったよ。」

マットのバンは古い。電気系統の接触が悪くてランプが付かなかったようだ。

「私はストアを開けなくちゃだから、すぐに戻るね」

「わかった。スタンドに寄ってガソリンを入れたらすぐに戻るから」

 

金曜日のストアは12時にオープン。

いつもは12時になってすぐにお客さんが来ることは少ないので、焦らずに戻った。

こんな日に限って・・・駐車場には4台の車が停まっていた。

急いでお店を開けた。

「お待たせしてごめんなさい。待っていてくれてありがとう」

「マットはガス欠だったんだって?」

お客さんはすでに知っていた。

ストアはほぼほぼローカルの常連のお客さん。みんないつもストアを切り盛りしているステファニーに電話をしていたみたいだ。

マットもすぐに戻ってきた。

「お待たせしました。本当に恥ずかしい・・・」

何が起こっているのか分からないステファニーのところに、待っていてくれたお客さんがみんな電話をかけていたので、ステファニーはマットに電話し「何かあったの?海はどこへ行ったの?」とすごく心配していたらしい。

 

今までは海が慣れるまで引き継ぎをかねて、ステファニーも一緒にお店で働いていてくれた。

そしていつもなら3人のメキシカンの同僚も働いている。

誰もいないこんな日に限って・・・

でも何かが起きる時は、そんなもんである。

 

今までの人生の中でガス欠になった人を目の前にしたのは初めてのことだ。

TVドラマや映画などでは起こるようなことでも、実際の生活の中でガス欠で車が動かなくなった人、しかもハイウェイの上で停まった人がいるなんて・・・

「ガス欠になった人を初めてみたよ」

「おー。俺は海にとっての初体験を味あわせてあげられたんだ。それはよかった」

呑気なマットだ。

 

家に帰って夫の空に一部始終を話した。

「ガソリンタンクにガソリンを入れられた?」

「いや、キャップが開かなくて大変だったよ。優しいお兄さんに開けてもらったよ」

「そうじゃなくて・・・危ないから、タンクにガソリンを入れられないスタンドもあるよ」

「それに、ガソリンタンクもガソリン用のものじゃないと本当に危ないんだよ。知ってた?」

「・・・・・」

何もしらないというのは恐ろしい。

結構危ないことを知らずにやっていたらしい。

アメリカであり得ないことが多々起こるのは、細かいことを気にしないアメリカ人の気質のせいなのかもしれない。

空のように日本人なら、何事も起こらないように気を付けるからだ。

こんなアメリカに住んでいると、ありえないような体験をたくさん出来るから面白いとも言える。

何事もなかったから、このドラマの中のような出来事を大笑いのネタにできるのだ。

私を守ってくれてありがとう!!と私の守り神様たちにとっても感謝した。