29年前の「パスタ」の思い出

「今日はピザなんてどう?」

自分たちの畑の農作業の途中で、夫の空が聞いてきた。

「良いね〜。実は昨日からピザが食べたいと思っていたんだ」

最近不思議なことに、空と以心伝心の頻度が多くなってきた。

同じ日に同じ動画を観ていたり、ドライブの途中で同じことを考えていたり・・・

でも今回はちょっとだけ違っていた。

空はピッザリアで食事をするつもりだったらしいが、海はピザをテイクアウトするつもりだった。

海はピザ以外に食べたいものがないのでピザをテイクアウトして、空が食べたいパスタを作ることで意見がまとまった。

「久しぶりにミートソースのパスタが食べたいかな?」(空)

「何の種類のパスタが良いの?」(海)

「リングイーネかな」

 

今ではパスタにはいろいろな種類があることは知っているが、29年前はパスタ=スパゲティだった。

もちろん、ロングパスタ、ショートパスタ、乾燥のもの、生のものがあるなんて全く知らない。

マカロニだけはサラダやグラタンを母が作ってくれたので知っていた。しかしマカロニはマカロニという商品名で、パスタという新しい言葉のカテゴリーの中には入っていなかった。

パスタという言葉を使い出したのは何時からだっただろう???

 

29年前に初めて 一人でマンハッタンに遊びに行った。

英語もほとんどできず全く地理もわからないのに、この頃は怖いもの知らずだった。

その当時はまだ今ほどは治安が良くなかったので、$20だけ靴下の中に入れて行ったような気がする。

お腹が空いたのでイタリアンレストランに入った。

そこで$20以内で食べられて、想像ができるパスタ料理を注文した。

パスタはスパゲティだと思っていたので、ほうれん草とチーズのクリームパスタを楽しみに待っていた。

運ばれてきたのは、想像と全く違うお皿だった。

間違えて運ばれて来たのだと思って「私はパスタを頼んだんだけど・・・」とウェイターの人に聞いた。

「これがあなたが頼んだパスタだよ」

「・・・・・」

海が頼んだものはほうれん草とフェタチーズが入っているショートパスタのラビオリ。

ラビオリというのは袋状になっている生パスタで、中にいろいろな具を入れられる。

そのラビオリがホワイトソースに絡まっている。

ラビオリもフェタチーズも初めて口にした海は、「美味しい」と感じなかった。

スパゲティを食べたかったのだから、ガッカリの気持ちが先で味わって食べることもしなかった。

 

そんなことを思い出しながら空と、今の日本の「食の多様」のことに話が進んでいった。

アラフィフの海が子供の頃はほぼ外食することはなく、行ったとしても近所の支那そば屋さんかうどん屋さんくらいだった。

その頃は田舎にイタリアンレストランなんてなかったような気がする。

茶店に行けばナポリタンなどはあったと思うが、喫茶店は大人の行くところで、子供では不良と呼ばれていた中学生、高校生だけが行っていたという感じだった。

ナポリタンを食べたのはいつ、どこだったか覚えていない。

子供だった40年前から比べると、日本の「食」がガラっと変わった気がする。

食だけではなく使っている言葉も、習慣も常識も少しずつ変わっている。

40年前は水を買うなんて想像できなかった。水道の水を平気で飲んでいた。

お菓子なんて毎日のように食べられなかった。友達の家に遊びに行った時か、友達が遊びに来た時に出す貴重なものだった。

子供は風の子元気な子だった。

日本人が勝手に変わっていったのか?意図的に変えられたのか?????

もちろん・・・だろう。