同僚のアメリカ人大学生の話

海は6代続くアメリカ人経営の大きな農場で働いている。

今のオーナーはとてもやり手だ。

海が働きだしてから5年の間でどんどんと大きく、忙しくなっている。

5年前には10月後半から仕事がなくなり、一旦辞めなければならなかった。

季節労働者扱いだった。

今では冬でもフルタイムで働ける。

来年の春には新たにもう1棟の水耕栽培のグリーンハウスができる予定だ。

そんな農場で働いているのは、アメリカ人、メキシコ人、そして海と海が紹介した日本人1人。

夏は大学生が大勢アルバイトにやってくる。

夏休みが終わっても週2、3日半日程度働き続ける学生も数人いる。

そういう学生は農業に興味があるか、とても無口で人付き合いの苦手なタイプの若者だ。

農場での仕事は、基本的には会話はいらない。

皆それぞれイヤフォンをして自分の好きな音楽を聴きながら仕事ができる。

 

超マイペースな男子学生

一緒に働いている男子学生はとにかく仕事が遅い。

びっくりするほどマイペースで、海の5分の1ほどのスピードだ。

毎週同じルーティンで仕事をしているのに、指示を出さないと動けないでボーっと立っているようなのんびりさんだ。

彼は期待をされていないようで、仕事をせずただ立っていても誰も気にしていない様子だ。

最初の頃はボスの代わりに海が指示を出していた。

すでに半年以上働いている彼に、おせっかいな海もさすがに指示をださなくなった。

「何をすればいいか聞いてくるまで放っておこう」

最近は彼の動きを観察して楽しんでいたりする。

何もしないで立っていることが苦手な海には、彼の行動が面白く映る。

彼ほどゆっくりな若者は珍しいが、農場にアルバイトに来る学生は皆似たり寄ったりだ。

一度小さなレストランを経営したことがある海は、オーナーの立場でものを考える癖がある。

からしたら、絶対に雇いたくない人材だ。

こういう学生アルバイトを雇えるのは、農場は経営的にずいぶん余裕がある証拠だ。

 

マイペースくんはしっかりしていた

海は水耕栽培のハウスで使うトレーを洗う作業をしていた。

この日はあまり仕事がなく、仕事を見つけるのが大変なくらいだった。

マイペースくんはいつものように、何をしていいかわからず海の後ろを何度も行ったり来たりしていた。

声をかけてもらうのを待っていたのか?

さすがのマイペースくんも何かしなくては?と思ったのか、海が洗っているトレーをすすぐのを手伝い始めた。

「ありがとう」

それだけ言ってもくもくとトレーを洗っていった。

「英語の勉強をしようかな?」

マイペースくんはおしゃべり好きだ。

話しかければすぐに話に乗ってきてくれる。

「君のまわりでコロナにかかった人はいる?私の周りには誰もいないから、コロナは本当に蔓延しているのか疑っちゃうよ」

こんな会話からスタートさせた。

アメリカでは感染者がすごい勢いで増えているとニュースで言っている。

日本の外務省から、アメリカは渡航禁止勧告のレベル3のままだというメールが来たばかりだ。

1時間ほどたわいのない会話の中で大統領選挙の話題になった。

「マイペースくんはトランプとバイデンのどちらをサポートしているの?」

「バイデンだよ。」

「私はトランプは好きじゃないけど、経済のことを考えるとトランプの方がベターじゃない?」

するとマイペースくんはいきなり自分の意見を言い出した。

「僕はそうは思わないよ。トランプは大企業のことだけで中小企業のサポートはしてないからね。福祉のこともぜんぜん動いてくれないし。」

海の英語力では彼の話の全てを理解することは難しかった。

アメリカの学生はすごい!!

きちんと自分の意見と主張を持っている。

もともと人と話すのが大好きな海は、こういう時に英語力をもっとつけなくてはと思う。

与えられた仕事は海の半分以下しかこなせないマイペースくんを見直した瞬間だった。